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お別れのことば

高知大学留学生カウンセラー 玉置 啓子

 20日の知らせを聞いて以来、信じられない気持ちでいっぱいです。 そして深い悲しみでいっぱいです。残されたご家族の悲しみはいかばかりかと、 心からお悔やみ申し上げます。

 カリムとは、彼が高知大学に編入して以来、約3年半、留学生カウンセラーとして、 また私の家族もふくめての交流がありました。

 カリムは色々なことに関心を持ち、行動力のある人でした。とりわけ、社会の 不公平や不正義とに対してはとても敏感で、それを憎んでいました。

 たとえば、一昨年12月に、メキシコ南部のチアパス州で、先住民の権利の擁護と 生活向上を目指して運動している人々に対して、多くの女性、子供を含む住人を 虐殺するという事件が起きました。次の日、カリムに会ったとき、彼の顔は真っ青で、 激しい怒りに燃えていました。

 また彼は、メキシコの国や自分の故郷をどうすればよくすることが出来るかについて、 様々なアイデアを考えていました。たとえば、故郷のミナティトランの子供たちが、 十分な教育が受けられるようにと、一つの試みとして、教科書をパソコンに取り込んで、 インターネットによって向こうの町でも取り出せるようにと、連日作業を続け、 やっとできたと喜んでいました。

 また、自分の出身学校の後輩に奨学金を送ることもしていました。

 そういう様々な問題をどう解決したらいいか、いろいろ考えていると、彼はよく、 「やっぱり、私が大統領になるのが一番早い」等と言ったりしたものでした。 そんな夢を実現させる前に、こんな事になってしまって、残念で残念でたまりません。

 また、彼は外国人の人権問題などのテレビ番組があると、「先生、今こんな 番組をやってるけど見てますか」と、すぐ私に電話をかけてくれました。

 そういう意味で、カリムには教えられることがいっぱいありました。 彼は私たちの間をあっというまに駆けぬけてしまった感じがします。 でも彼のまわりのすべての人の心に残る深い印象を与えずにはおかない人でした。

 今私は、カリムはメキシコに帰ったんだと思いたいです。だから、こういう言葉、 「私たちまたメキシコで会いましょう--- "Nos vemos pronto en Mexico"」 という言葉で、カリムにお別れします。

1999年6月25日